冬とお月様

朝、目が覚めるた時、窓の外の暗さと時計の指す時刻が妙に噛み合わないなと感じることがあります。針が示すは6時過ぎ。ベッドを抜ければ、凍てつく冷気が肌を刺し、たちまちベッドが懐かしくなるものです。かじかむ目蓋をやっと開けば、窓の外は、長い夜の名残が尾を引き、青く染まった朝が静かに佇んでいます。今は何時だっただろうか。太陽はまだ現れそうにありません。そんなちぐはぐの朝の到来に、毎年、あぁ冬が来たなとしみじみ思うものです。


皆さんお久しぶりです。一年の杉本です。冬ですね。


冬公演では、この投稿が僕の最初のものになります。何を書こうかあまり考えないまま筆を執ってしまったので、どうまとまるか予想もつきませんが、それでもお付き合いいただけるという心優しい方は、短い間ですが、どうぞ一緒にお話ししましょう。


冬公演まで日も迫り、練習もいよいよ細やかな点へ集中するようになってきました。目線の問題を指摘されている方もいれば、台詞の抑揚やスピードの緻密な調整を演出さんに要求されている方など、各々の多種多様な課題が挙げられ、なおかつ絞り込まれつつあります。僕の場合は動作の無駄をなくすこと。つまり、身体の動きをより磨き上げることが目下の課題です。


正直かなり苦戦しています。一挙一動に何らかの意味を付与して動く必要がある一方、計算され尽くした動作はどこかぎこちなく見える。そんな矛盾を乗り超える必要があるらしいのです。うーん、気が遠くなりそうだ。解決の糸口も未だ見えません。


そんなこんなで悩みながら歩いていたある夜、ふと空に意識がいきました。見上げるとそこには、吸い込まれるほど輝く満月がありました。月の周りには、光輪が波動のように広がっていました。見つめるうちに、それが体内を駆け巡るような感覚を覚えました。僕は今。月を見ている。そう強く思いました。


ですが同時に、こうも思ったのです。月も僕を見ている、と。もちろん科学的にはありえません。月に目はありませんし、あったとしても兎の目が関の山です。

それでも、僕は月と目が合ったように思えたのです。


見る、見られる。それは表裏一体なのかもしれないと実感した気がしました。漠然としたこの発見は、何か現状を打破するきっかけになりそうだ。その日の僕は思い、さっそく意見をまとめるぞという時に、眠気が襲い、今日に至ります。


せっかくの機会ですし、改めて考えてみようと思います。舞台に当てはめると、僕は役者として自身のキャラクターを見ている。他方で、僕の動作はキャラクターによって見られているということでしょう。キャラクターに見られている?自分で書いていてなんですが、意味が分かりません。どういうことなのでしょうか。

考えるに、ここではお客様の視点が不可欠なのではないでしょうか。観客の皆さんは役者である僕とキャラクターを同時に見ます。そこではいかに役者とキャラクターが溶け合っているかが重要になるはずです。そのためにはキャラクターの要請にこたえる必要があります。ならば、キャラクターからの要請及びそれに対する評価というのは、そのままお客様の舞台へのに直結することになります。

つまり、僕は自分がどう動くか、動けるかを考えるのではなく、キャラクターはここでどのような動きをするよう求めているかというのを考えるべきだということなのでしょう。うーん、やっぱり難しいことを要求されてるなぁ。


ところで、驚くことに、最近読んだメルロポンティという哲学者の入門書にも同じようなことが書いてありました。身体は「見るもの」であると同時に「見られるもの」であるそうです(村上隆夫, 『メルロ・ポンティ 人と思想112』新装版, 2019, 清水書院, pp166-170)。流石は偉大な哲学者です。僕なんかの漠然とした発見よりも質の高い奥行きある考察を、何十年も先に、深めていたようですね。


やっぱり着地点のあやふやな、取り留めのないお話になってしましましたが、一先ず、僕の中でのこれからの方針は固まりそうです。変なお話にお付き合いさせてごめんなさい。要は、公演に向けて頑張ってますということをお伝えしようと思っていたんです。何でこんなことになったのか。やっぱり書くことは考えて書くべきですね。


でも、このお話に後悔はしていません。だって冬と月と悩み。こんな典型的な3要素が揃っている中で、哲学や詩作をするなという方が難しいではないですか!そう思いませんか?

…などと言い訳をしてみますが、年がら年中こんなことを言っている気がしますね、僕。説得力の欠片もありませんでした。おとなしく自分の非を認めます。


今日はこんなお話にお付き合い下さり、ありがとうございました。

きっと次も哲学染みた話になりそうですが、また宜しければお話ししましょうね。


それではさようなら。よい日々をお過ごしください。担当は一年の杉本でした。


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