選択肢が多すぎる
「選択ってのは、面倒なものだと思わないか?」
唐突に友人は話し出した。つい先ほどまで、僕たちは近所のファミレスで勉強をしていたはずなのだが。あと三か月もすれば忌々しい受験が待ち構えている。そんな時にこんな長引きそうな話につきあう義理はない。
「そう冷たい目を向けるなよ。ちょっとした雑談、休憩みたいなものじゃないか。」
『休憩ね…。十分だけだぞ。』
「はいはい、それでお前はどう思うよ。」
『選択が面倒なものって話か?僕はそうは思わないけど。』
「へぇ、なんでそう思うわけ?」
『そんなに難しい話じゃないだろ。逆にさ、もし選択を自由にできないとする。そしたら自分の好きなものを自由に選べなくなってしまう。今日何を食べるかみたいな小さいことから、どんな進路を選ぶかみたいな人生にとって重要な事だって選べないじゃないか。』
「選べないってことはそんなに嫌か。」
『当たり前だろ。自分のことを自由にできないなんて、普通は嫌だろ。』
そうだ。選べないなんて僕はごめんだ。自分のことを誰かに決められる筋合いはない。親だって、先生だって僕の未来を勝手に決めることができるはずがないのだ。
「なるほど、つまりお前は、選択とは自分の自由を守るために必要なものだと言いたいんだな?」
『まぁ、そんな感じでいいよ。』
「でもさ、選択は意外と不自由なもんだぜ。」
「そんな小難しいことじゃない。それこそ、ここのファミレスで言える。」
「ここのメニューの総数は100種類ぐらいだ。ふと腹が減っちまって、飯を食いたくなったとする。メニュー表を開くと、そこにはぎっちり100の選択肢があるわけだ。」
「そうすると俺はこの100種類を吟味して選ぶ必要があるわけだ。それに一体何分かかると思う?おれはさっさと飯を食いたいのに、選択肢が多いばかりに色々考える時間がとられちまうわけだ。」
机に突っ伏した彼はメニュー表を指してそんなことを言うのだった。生き生きと話す割には随分と覇気のない目をしている。何かを諦めたような、目の前に置かれた現実を直視してしまった、そういう人間の目だ。
「つまりさ、選択ってのは自由な分、手間がかかるのさ。選ぶ前に色々知らべたり、たくさんの選択肢を見なきゃいけないなんて、面倒くさいと思わないか?」
「そう考えると選択肢ってのはできるだけ少ない方が望ましいはずだ。やたらたくさん選択肢を用意するなんて、選ぶときに時間がかかるだけだろ。」
彼の愚痴とも論ともいえない言葉を聞き流しながら、隠すように置かれた紙を見てみる。マーク式の解答用紙は笑ってしまうほど真っ白で、問題用紙には一時間半ほどかけて書いた線が黒々と流れているのだった。
『少なくとも一つは言えるよ。選択肢が多いか少ないか、どちらかがいいかは人による。
だけどさ、そういうことは選べるようになってから考えるべきなんじゃないか?』
彼は何も言わず再びペンをとるのだった。
小説風に書きました。右京です。
選択サイコー!
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